水曜日, 2月 06, 2008

カシミアのマフラー

息子の受験日・・・、2月3日の日曜日、朝、目覚めて外を眺めたらびっくり、あたり一面真っ白な雪景色。
雪深い地域から見れば、たいした事のない雪の量かもしれないけど、東京では、ほんとに珍しい。

それにしてもよりにもよって、息子の受験日にあんなに降るとは・・・。
朝、5時半に起きて、朝ごはん作って~食べて~身支度して、私と息子と二人、長靴はいて7時ジャストに雪が吹雪く中、電車を乗り継いで、品川の先の方の受験会場へと向かった。

日曜日の早朝でもやはり東京の電車内は結構混んでいて、中学受験らしき親子があちこちに見受けられた。
あの親子もこの親子もそして、私達も・・・。

うちの場合は、私立ではなく、都立の中高一貫校をただ一校受けるだけだけど、小3とか小4とかから塾通いの子供達は、平均で6校は受験するとか・・・。
すごいなー。

うちの場合は、都立だから、いわゆる答えを書くだけのテストじゃなくて、「文章で説明しなさい。」とか「あなたの考えを書きなさい。」とかっていう問題ばかり。
それから、作文、テーマは、「水のかたち」についてだった。
要するに文章能力と自分の考えがきちんとなきゃ、ダメって事みたい。

それにしてもその日、雪がかなり積もっていてものすごく吹雪いていたから、電車の遅れがないだろうかとか乗り継ぎがうまくいくだろうかとかとか、初めて行く場所だから迷わないかしらととっても緊張してた私。

東急線~山手線~京急線と乗り継いで、最後の京急線では、二つ目で下りた方が近いのか三つ目で下りた方が近いのかきょろきょろしながら迷っていた時、私達が座っている座席の少し先、斜めのあたりの端っこに金髪の小柄な白人青年がぽつんと座っているのが目に入った。
何となく違和感を覚えて、よ~く見ると、こんなに寒い朝なのに薄い生成りのシャツに薄い生成りの綿パン姿。さらによく見ると血らしき跡がシャツに数箇所しみ込んでて、もっとさらに見ていると、手にカイロを握り締めながら目を閉じたままブルブル震えている・・・。

息子に、「あの人、どうしたんだろうー。血がついてるね。」と小声で囁くと、
「えっ、だれ?」と言って見た途端、
息子はipodをしたままだったせいもあるが、
「かわいそうー。血が~~~。」と大声で叫ぶ始末。
「しぃ~っ。声が大きいよ!でも、いったいどうしたんだろうね、あの人。かなり寒そうだね。」
「あー、どんどん震えてきたよ。どうする?かわいそうで見ていられない・・・。」
「・・・・・。」

そんな会話をしながら、私は今朝の身支度の時にセーターにするかカーディガンにするか迷って、セーターにしたことを後悔した。
カーディガンなら、私はダウンジャケットを着ているわけだから、さっと脱いで、あげられたのに・・・。
セーターの下には肌色のババシャツしか着てないしなー、ダウンをあげるには私が寒すぎて風邪ひくかなーとかもしかしたらその人は凶暴な恐い人かもしれないし、変な人かもしれないし・・・。

息子には「あの人は恐い人かもしれないし、世の中には人の優しさを利用する人もいるからこういう場合は慎重にね。」と言いながら、
電車を下り際に、私の黒いカシミアのマフラーをその青年の両手の上にそっと置いてドアを出た。
一瞬、ずっとうつむいて目を閉じてたままの青年が青い目で私を驚いたような顔で見つめたのがわかった。そして、あごのあたりにも傷があり、もう乾いてはいたけれど血があごから首へと流れていたのも見えた。
「誰かに殴られたのかしら・・・?」

降りた後、走り去る電車を振り返って見ると相変わらずうつむいてはいたが、その青年の首に黒いマフラーがぐるりと巻きついていたのを確認して、ほっとした。
「マフラー、首に巻いてたよ。良かったね。」
「マフラー、あげて大丈夫だったの?」
「安モンだから、大丈夫・・・。」

そのホームから改札へと向かう中、
息子が、「かわいそうで、涙が出てくる・・・。」と言って涙を目にいっぱいためて私を見つめた。
私も涙を目にためながら、駅の改札を出た。
ますます吹雪く中、私達は受験会場へと向かった。

「いかん、いかん、今日は大切な受験の日。しっかりしなきゃ・・・。」と思いながらもその光景が目に焼きついて離れない。
「あー。手袋もあげればよかったかな?帽子をあげればよかったかな?この着古した上着をあげれば良かったかな?」とか、わらしべ長者じゃないけど、カイロ~マフラー~手袋~帽子~上着~な~んて、増えていくと良いなーなんて思ったりして・・・、しばらく、涙が止まらなかった。

そんな、受験日が過ぎ、発表は、9日・・・。
あ~ぁ、受かるかなー?